2014年12月8日月曜日

朝と鱗の話。

子どもの頃、いわゆる寝付きの悪い子だった。
おまけに暗いところには何かが居ると信じていたから、言うまでもなく夜が嫌いだった。
長い、長い夜。疲れて眠る大人たちに取り残されて、暇を持て余していた。
小学生だったある夜、あまりに眠れず退屈した私は、眠っている母の腕にシールを貼って遊んだ。小さな星形のキラキラ光る青いシールだった。起こさないようにそぉっと、そぉっと貼る、そのスリルがたまらなかった。
眠りにつく頃、母の腕には青い星がいくつも輝いていた。

次の日、朝ごはんを食べる私に、『腕にシール貼ったでしょ』と確認しつつ、『鱗が生えてきたのかと思ってびっくりした。』と半分真顔で笑う母。
朝目が覚めて、自分の体から『鱗が生えてきたのでは』と驚いた人がこの世に何人居るだろう。
寝付きの悪い娘を生んだおかげで、母はものすごく貴重な経験をした。


鱗の朝・・・
今思えばなんて劇的な朝だったんだろう。
母の中に生まれて、一瞬にして消えた、あり得ない未来。
鱗が生えるという事は、人間でなくなる。一夜にして、別の何かになる。
人生が変わってしまったかもしれなかった、朝。

今は夜より朝が憂鬱だけれど、もしかしたら明日は人間ではないのかと思い、
今夜もとりあえず、朝に向かって目をつむる。
人間でなくなる日は来ないにしても、頭の奥の、奥の、奥の方にある、あり得ない未来。
そんな未来への希望が、不安な朝を超え、暗く長い夜をくぐり抜け、私をここまでつれて来たように思う。


ともあれ、『鱗が生えた』と思ったその瞬間、母の頭に浮かんだ未来は美しい人魚だったのか、恐ろしい魚人だったのか。機会があれば確認してみたい。